プロフェッショナル 伝説のうどん職人編
マダムは無類のうどん好きである。週4日は多分うどんを食べている。夕食の時、みそ汁の代わりに小うどんがよくでる。そんなわけでよくうどん屋さんにも食べに行くのだが、最近マダムお気に入りのうどん屋さんがある。今日はその店の「大将」についてお話しましょう。
その店は、この大将(以下、おっちゃん)とその息子さんできりもりしている。昼の忙しい時間帯はパートのおばちゃんがいる。もうほとんどおっちゃんはうどん作りを息子に任せていていつもふらふらしている。僕の見る限りではおっちゃんが働いている姿を見たことがない。
しかし、おっちゃんがうどんを打つときが唯一ある。夕方4時前後、ひまな時間帯なので息子が休憩に行ったとき店はおっちゃん一人になる。で、僕とマダムがランチの片付けを終えていくと、だいたいこの時間帯になるのである。
実はこのおっちゃんの打つうどんは天下一品なのである。息子さんのもおいしいけどやっぱりおっちゃんのは一味違う。太さ・つや・こし、どれをとっても完璧、まさに芸術。しかもこの時間帯はあらかじめ茹でおきしてないので、オーダーが入ったら一から打ちはじめ作るので最高。ただ問題なのは、時間がかなりかかること。
このおっちゃん、急ごうという気はさらさらない。それでもおいしいうどんをおでんを食べながらゆっくり待つのもいい。僕は夏はざる、冬は釜揚げを食べる。おいしいうどんはシンプルにかぎる。
もう一つ、おっちゃんのにぎるおにぎりも最高。にぎり加減が強すぎず・弱すぎず・塩かげん、どれをとっても僕の思い描く理想のおにぎりだ。しかし、2回に1回はオーダーを忘れていてもってきてくれない。もしできることなら、僕は自分の店をすぐにでも辞め、このおっちゃんに弟子入りしたいと思っている程だ。思うに多分、おっちゃんは昔は伝説のうどん職人でこの業界ではかなり有名。しかし今はそんな名誉や名声を捨て、息子と二人でひっそり余生を過ごしているのだ。
実は、このおっちゃんが無茶苦茶働いている姿を一回だけ見たことがある。たまたま昼の忙しい時でいつものパートのおばちゃんが休みで、その時だけ多分おっちゃんの奥さんがヘルプに入っていたのだと思う。あんなに積極的にきびきび自主的に働いているおっちゃんを見たのは、あの時が最初で最後だ。どんな伝説の男でもやはり奥さんは怖いのである。
最後に、プロフェッショナルとは...
一つの道を極め、老後はのんびりと暮らしたいが、それを許されない恐妻家のことである。