Yasuto
Nakahara
________Chef

収穫月シェフは二度死ぬ(潮干狩は命がけ)<前編>

「潮干狩」この言葉を聞くと血が騒ぐ。
僕の家は高梁川という川の下流付近にあったので、よくこの時期になると家族で潮干狩に出かけた。今と違って昔はアサリがよく獲れた。今回は40年前に僕の家族を襲った悲劇を紹介しよう。

その日はよく晴れた日曜日の午後だった。昼ごはんを食べ家族で潮干狩に行くことにした、両親と兄(6歳上の兄がいる)と僕の4人で。なぜかその日はアサリがよく穫れ一心不乱で穫り続けた。

夕方になり周りの人たちが帰りはじめ、岸の方から誰か叫んでいたが僕たちは夢中で穫り続けた。そして、ふと頭を上げると... なんといつの間にか潮が満ちていて僕たち家族だけが中州に取り残されていたのだ。

潮が満ちるスピードの速いことはやいこと。どんどん中州が小さくなって、あっという間に水が膝までやってきた。この時ばかりは子供心に「こりゃ死ぬわ!」と思った。

その時である。いつも無口で存在感の無い父が、泣き叫ぶ母と兄を両手に持ち、僕を肩車し、岸に向かって歩き出した。その時の父の姿と言葉が今でも忘れられない。

「いいか、みんな。心配ないからワシについてこい!」

かっこいい、カッコよすぎる!
しかし、無情にも岸まで半分ほどを残してもう水は首のところまでやってきていた。果たして中原家の4人の運命はいかに...?(つづく)