Yasuto
Nakahara
________Chef

MOON WARS エピソード3

料理人の仕事の醍醐味の一つに「塊の肉を焼く」という作業がある。ただ焼くといってもフランス料理ではソテー、ポワレ、エチュベ、ブレゼ、ローストとかなり細かく区別されている。それだけ彼らは肉を焼くことに命をかけているのである。

僕の心の師と仰ぐ「マルディグラ」の和知さんは、理想の肉焼きとは「厚さ・熱さ・香り」だそうだ。厚みのある肉を噛みしめるとアツアツのジュースがあふれ、肉の躍動的な旨さと香りが広がる。

そしてもう一つ、肉をローストしたら必ず休ませること。休ませるといっても布団と枕はいらない。肉は焼きたての時は肉汁がまだ安定してなく、すぐ切るとおいしいジュースがすべて流れ出てしまう。

つまり食べた肉は出し殻状態でパサパサ、休ませることにより肉汁が安定し、きれいなロゼ色に仕上がる。そして、上手に焼けた肉の塊をお客様の前で切り分ける瞬間こそが至福の時。

僕は「セーラー服と機関銃」の薬師丸ひろ子になりきる「カ・イ・カ・ン」と。適度にサシの入ったマンガリッツァ豚肩ロースの塊をローストし切り分ける時が来た。

ニクヤキニストの凱旋の時だ。

ニクヤキニストの凱旋

ニクヤキニストの凱旋

スペシャル素材「マンガリッツァ豚」...
ワイン会の準備はめずらしく順調に進んでいるかに見えた。しかし突如シェフ・スカイウォーカーの左目が結膜炎に、暑かった夏の疲れか?年のせいか?

左目が完全に腫れ上がり、KOされたボクサーのように。そうでなくても人相が悪いのに余計悪くなり、子供たちまで恐がる始末。遠近感のとれないシェフ・スカイウォーカーに容赦なく地獄のメドゥーサ軍「ダース・ミカ・ベイダー」が襲いかかる。シェフ・スカイウォーカーをフォースの暗黒面に引き込もうとしているのだ...