待つわ
春が近づくと動物たちが冬眠から目覚め活動しはじめるのと同じように、収穫月では教室の問い合わせが多くなる。長くて寒い冬の間、閑散としていた教室もにわかに活気づく。
そのなかでも一番多いのがパン教室の問い合わせである。ではなぜ人はパンを作りたがるのか?ひとくちにパンと言っても菓子パンのような甘いパンからフランスパンのようにハードなパンと様々、毎日食べるなら食パンが飽きがこなくていい。
やはりパンを家庭で作る場合、「見極め」が難しいだろう。パンは生き物なので同じように作っても毎回同じようにできるとは限らない。どれくらいこねればいいのか?どれぐらい発酵すれば焼いていいのか?などレシピ本にはだいたいの時間や大きさなど書いてあるが、気温が1℃ 変われば大きく変化してくる。特に時間などパン作りにおいてだいたいの目安でしかない。
私自身、長年パン作りに携わってきたが、つくづく最近思うのは「パンにとって最も良い環境を準備してやる」ことが一番大事なことではないかと。そして、パンが発酵してくるのを我慢強くひたすら待ち続ける。人間のペースではなくパンのペースで待ち続ける。
こんなことを言うとMの月のシェフはとうとう頭がおかしくなったのかと思われるかもしれないが、最近その時間になるとパンたちが私にしゃべりはじめるのだ。「シェフ君、そろそろ焼いていいよ」とか、ちょっとガラの悪いパンたちは「おいこら、もうちょっと待たんかい」とか、パンの表情を見ればわかってくるのだ。
今までの私は、パンを私の都合で焼こうとしてきたが、本来パンというものはパンの都合に人間を合わせるものだ。そして、ひたすら温かく見守ってやる。これってひょっとして子育てと同じ!?なかなか実践するのは難しいがこういう発想も必要ではないかと。
収穫月パン教室もはや5年目に突入。今期からパンビギナーズコース開講。月1回、年12回のペースで毎回基本のパンを作っていく。第一回目のテーマは「ソフトフランス」。
その名の通り、フランスパンをソフトにした感じのパン。この生地はすべてのパンの基本要素が含まれており、マスターすれば活用範囲は広い。そのまま食べてよし、総菜パン、甘いパン、まさにオールマイティ。この生地を使って、ガーリックパン、ピザパン、あんフランスなど色々つくり、最後に作ったパンで軽くブランチ。まったりコーヒータイムも。
それでは最後に、世に数多いる手作り大好き人間、パン作り大好き人間に「待つわ」(あみん)を捧げます。
わたし まつわ〜〜
いつまでも まつわ〜〜
たとえ パンが ふくらまなくても〜
まつわ〜 まつわ〜 いつまでもまつわ〜
いつか パンが ふくらむ日まで〜
それでは収穫月でお会いしましょう。