Yasuto
Nakahara
________Chef

収穫月シェフの言葉遺産

このコーナーは今失われつつある美しい日本語を見直し、後世に残し日本人の美意識を再発見するものである。

記念すべき第一回目は「どろぼうネコ」です。

この言葉が使われるのはかなり限定されたシチュエーションでしょう。それもかなりの修羅場で使われることが多い。多くの人はテレビや映画でしかお目にかかることはないと思いますが、実は私、この「どろぼうネコ」をライブで体験した貴重な生き証人なのです。

それはもう十数年前、Mの月を開業する前、少しの間バーで働いていたことがあります。みなさんもご存知とは思いますがバーが開店するのは夕方ぐらいからで早い時間は結構ヒマです。だいたい客は同伴といってこれから出勤するスナックのおねえさんとその客が小腹を満たしにやって来るのです。

その日は例によって同伴と思われるカップルがカウンターでいちゃいちゃしていました。そしてその時、ドアが激しく開き一人の女性がすごい勢いで入ってきて、いきなり同伴女性に見事なビンタを炸裂させたのです。その時発せられた言葉こそがこの「どろぼうネコ」だったのです。

そうです、この「どろぼうネコ」は夫の浮気現場を見つけ夫ではなく浮気相手の女にビンタをくらわす時に使うのが正しい使い方なのです。

しかし考えてみてください。なぜ、ネコなのでしょう。なぜ「どろぼう犬」とも「どろぼう猿」とも言わないのでしょうか?これはネコに対する偏見で差別です。ネコ派の私にとって大変悲しいことです。

さらにもう一つの疑問。なぜ妻は夫ではなく浮気相手の女にビンタをくらわすのでしょう。夫も同罪であるにもかかわらず...

その後どうなったかと言うと、通常は浮気相手のやられっぱなしというのが多いパターンですが、この女性はなかなかの強者で、反撃し髪の毛の引っぱり合いや、ここではとても書けないような罵詈雑言の罵り合いが繰り返され、まさに修羅場。ただ夫は立ち尽くすばかり。この時ほど男の無力さを痛感したことはなかったです。

それでは、みなさんがこの「どろぼうネコ」という言葉を生涯一度も生で聞くことがないよう心からお祈りします。最後に、この美しき日本語「どろぼうネコ」をMの月シェフの言葉遺産として登録します。